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もかもいってしまうから、ぼくを助手にしてください」
「よしよし、きみはりこうそうな顔をしているから、きっと役に立つだろう。さあ、話してごらん」
「うん」
と、強くうなずいて、その少年の語るところによるとこうだった。
魔法使いのようなおばあさんは、その子を竹田文彥だといって連れてきたのだという。しかし、そのうそはすぐにばれてしまった。大野老人は右腕にあるあざを見ると、
「うそだ! この子は文彥じゃない。文彥のあざは左の腕にあるはずだ!」
それを聞くとおばあさんは、しまったとばかりにつえをふりあげて、大野老人をなぐり倒した。そして老人が気を失っているあいだに、大急ぎでその子によろいを著せ、よくこの家を見張っているようにと命じて、あわててそこを立ち去ったというのである。
少年はそれからずっとよろいのなかから、あたりのようすをうかがっていたが、とうとう本物の文彥に、それを感づかれてしまった。文彥から注意をうけた香代子は、急いで家へ帰ってくると大野老人にそのことを耳打ちした。
少年はとうとう見つかってしまった。大野老人は少年をよろいごと、いす[#「いす」に傍點]にしばりつけると、いろんなことをたずねたが、それからきゅうに大さわぎをして荷物をまとめて、自動車で逃げてしまったらしいのだ。
ところがそれから間もなくまた、魔法使いのようなおばあさんがやってきた。そして少年の見たこと、聞いたことを話させた。少年は本物の文彥がきたこと、金の小箱をもらっていったこと、さてはまた、文彥の住所まで話してしまった。おばあさんは縄をといてくれたが、もうしばらくそっとして、ようすを見ているようにといって、急いで出かけてしまったというのだった。
「ぼくはしばらく待っていましたが、なんだかこわくなってきたので、逃げだそうと思ったんです。しかし、あのよろいは、とてもひとりではぬげません。それでよろいごとこの家をぬけだして、ふうふう步いているうちに、おじさんたちがやってきたので林のなかへ逃げこんだんです」
少年の話がおわると、金田一耕助はうなずいて、
「なるほど、みょうな話だね。しかし、きみは、どうしてそのおばあさんと知り合いになったの?」
「ぼくは上野で、くつみがきをしてたんです。何年もまえからずっとそんなことをしていたんです。ぼくの名、|三《さん》|太《た》というんです。するとある日、あのおばあさんがやってきて、まごが死んだからそのかわりに家へひきとって育ててやろうと、あそこへ連れていったんです」
「あそこって、どこだい?」
金田一耕助がそうたずねると、とたんに、少年の顔がまっ青になった。ブルブルからだをふるわせながら、
「いえません。それだけはいえません。あそこは地獄だ。地獄のようなところです。銀仮面……仮面の城……ああ、恐ろしい。それをしゃべったら、こんどこそ殺されてしまいます」
少年はそれきり口をつぐんでしまって、金田一耕助がどんなになだめてもすかしても、がんとして口をひらこうとはしなかった。
ああ、それにしても、いま少年の口走った銀仮面、仮面の城とはなんのことだろうか。
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三太はかわいそうな少年だった。かれは自分の名まえも|名字《みょうじ》も知らないのだ。道を步いているときに車にはねられてしまい、ひどく頭をうって、それから自分がだれだか、忘れてしまったらしいのだ。おとうさんやおかあさんが、あるのかないのか、それさえわからなくなってしまったのである。仲間はかれを、三太だとか|三《さん》|公《こう》だとか呼んでいるが、それもかってにつけた名まえで、ほんとの名まえではない。
それを聞くと文彥は、たいそうこの少年に同情してしまった。金田一耕助もあわれに思って、自分の家へ連れていくことになった。
「とにかく文彥くん、きみを先に送っていこう」
「でも、先生、そうすると電車がなくなって、おうちへ帰ることができなくなりますよ」
「なに、だいじ