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「だれか!」
等々力警部が聲をかけると、
「アッ、警部さん、きてください。くせものをつかまえたんですが、こいつ少しみょうなんです。からだがゴムのようにやわらかで……」
その聲はまぎれもなく金田一耕助。それを聞くと等々力警部と文彥は、大急ぎでそばへかけつけると、サッと懐中電燈の光をあびせたが、そのとたん、
「アッ、き、き、きみは香代子さん!」
おどろいてとびのいたのは金田一耕助である。
なるほど金田一耕助に組みしかれて、ぐったりと倒れているのは、大野老人のひとり娘、香代子だったではないか。
「きみだったのか。きみだと知っていたら、こんな手あらなまねをするんじゃなかったんだ」
金田一耕助に助けられて、よろよろと起きなおる香代子を、等々力警部はうたがわしそうな目で見つめながら、
「お嬢さん、あんたはなんだっていまじぶん、こんなところへきたんです。まさか銀仮面の仲間じゃあるまいと思うが、こんどというこんどこそ、すべての秘密をあかしてもらわんと、このままじゃすみませんぞ」
等々力警部に鋭くきめつけられて、
「すみません、……すみません」
と、香代子はただむせび泣くばかり。
金田一耕助はやさしくその肩に手をかけて、
「香代子さん、こうなったらなにもかもいってしまいなさい。きみがいくらかくしても、ぼくはちゃんと知っています。あなたがたの秘密というのは、人造ダイヤのことでしょう」
それを聞いて香代子はもちろんのこと、等々力警部も文彥も、思わずアッと、金田一耕助の顔を見なおした。
人造ダイヤ
人造ダイヤ! おお、人造ダイヤモンド! それはなんという大きな秘密だったことだろう。
きみたちもご存じのように、化學的にいえば、ダイヤモンドは純粋の炭素からできている。木炭や、きみたちが學校でつかう鉛筆のしんなどと、ほとんどおなじ成分なのだ。
だから、ダイヤモンドに高い熱をあたえると、燃えて炭酸ガスになってしまう。むかしある王さまが、世界一の大きなダイヤモンドを作ろうとして、じぶんの持っているダイヤを全部、|爐《ろ》にいれてとかしたところが、あけて見たら、ダイヤは影も形もなかったという、お話まで伝わっているくらいである。
しかし、そうして成分もわかっているのだし、しかもその原料というのが、世にありふれた炭素なのだから、人間の力でダイヤができぬはずはない。――と、いうのがむかしから、科學者たちの夢だった。
しかし、學問的にはできるはずだとわかっていても、じっさいには、いままで大きなダイヤモンドを、作りあげたひとはひとりもいない。ただ、いまから六十年ほどまえに、フランスの科學者が、電気爐のなかで、強い圧力をかけながら、炭素をとかして、ダイヤを作ることに成功したが、それは|顕微鏡《けんびきょう》で見えるか見えないかというほどの大きさだったから、じっさいの役には立たないのだ。
それからのちもこの問睿�蚪鉀Qしようとして、多くの學者が努力した。ダイヤモンドを作ることに成功しなかったとしても、それらのひとびとの努力はけっしてむだではなかった。ダイヤモンドと木炭がおなじ成分からできていながら、ちがっている秘密がだんだんわかってきたからなのだ。だから、そのちがいさえなくすれば、人造ダイヤは作りだすことができるはずなのである。
きみたちはこの物語のはじめのほうで、金田一耕助が成城にある大野老人の地下室で、純粋の炭素を製造する、ふしぎな機械を発見したことを覚えているだろう。あの機械と、大野老人の手元から出た、いくつかの大寶石から、金田一耕助はついにこの秘密を見やぶったのだった。
金田一耕助のことばに、香代子は涙にぬれた目をあげると、
「まあ、先生! 先生どうしてそのことを、知っていらっしゃいますの?」
金田一耕助はにこにこしながら、
「だってきみは、あれだけの大きなダイヤを、まるで炭のかけらぐらいにしか、